運送業許可は、「他人から依頼を受け、お金を貰って旅客・貨物の運送をする」場合に必要となる許可です。
その中でも貨物自動車運送事業とは、有償で軽自動車又は二輪の自動車を使用して、荷主の荷物を運送する事業です。(バイクは、125cc超の場合のみとなります。)
『一般貨物自動車運送事業』、『特定貨物自動車運送事業』は、許可制となり営業開始するのに許可が必要となりますが、『貨物軽自動車運送事業』は届出制となり、手続は比較的簡単です。
しかし、あくまでも『一般貨物自動車運送事業』、『特定貨物自動車運送事業』の手続きに比べての話であって、確認すべき要件などはしっかり定められております。
では、『貨物軽自動車運送事業』について、要件などひとつずつ見てみましょう。
貨物軽自動車運送事業について
軽自動車又は二輪の自動車を使用し、荷主の方から比較的小さな荷物を運ぶ依頼を受け、運賃を受け取る場合は「貨物軽自動車運送事業」となります。軽自動車、125cc超の軽二輪、小型二輪車が対象です。
※ちなみに125cc以下の原動機付き自動車は、許可や届出なく運送事業を行っても大丈夫です。
一般的に“運送業”を指す『一般貨物自動車運送業』と比較してみましょう。
メリット
①|車両の準備
『一般貨物自動車運送業』であれば、5台以上の車両を用意する必要です。
『貨物軽自動車運送事業』は、1台の軽自動車から申請ができるため、事業用に複数台用意する必要はありません。
また、登録できる車両は、以前は軽トラックや軽バンなどの「軽貨物車」のみ限定されていましたが、令和4年(2022年)10月27日に、買い物用途として自宅で使用している「軽乗用車」も登録できるよう、規制緩和されました。
②|審査期間
『一般貨物自動車運送業』は、許可制になるので申請してから許可が降りるまで約3~5か月。さらに許可後にも手続きが必要なので、営業開始は許可後おおよそ1か月と、営業開始までに半年以上の日数が必要となります。
『貨物軽自動車運送事業』は、届出制なので審査期間等はありません。書類に不備がなければ申請日当日に登録されます。
申請した後に車両のナンバー変更も必要ですが、申請したその足で車両のナンバー変更まで行えば、その日から事業を開始することが可能です。
したがって、申請から登録、開業までの期間は最短で1日です。
③|お金の要件
『一般貨物自動車運送業』であれば、「運転資金の6か月分+税金・保険料の1年分」以上の預金を保有していることを残高証明で証明することが必要です。
お客様の事情によりご用意頂く金額が変わりますが、おおよそ1500万~2000万円前後が必要となります。
『貨物軽自動車運送事業』に関しては、資金要件はありません。
ですので、資金要件が足りず、まずは貨物軽自動車運送事業から始めて、一般貨物自動車運送事業を始める方もいらっしゃいます。
デメリット
『一般貨物自動車運送業』と比較すると特にデメリットはありませんが、使用する車両が三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車に限られるので、運べる荷物の量や大きさはある程度制限されてしまいます。
したがって、一般的に“運送業”といわれる事業を行いたい場合は、よく検討して『一般貨物自動車運送業』の許可を取得する準備する必要があります。
貨物軽自動車運送事業の要件
貨物軽自動車運送事業を始めるには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 営業所・休憩施設・車庫の確保
- 軽貨物車両の確保
- 運行管理体制の整備
- 運送約款の制定
これらの許可要件について、順に見ていきましょう。
1.営業所
①使用権原
使用権限は、申請者にありますか?特に、賃貸借契約書等の添付書類は、不要ですが、使用権原がある旨を宣誓します。
個人で開業する方のほとんどが自宅です。
②立地条件
営業所に関する2つめの要件は、各種の法律上、その営業所の場所で貨物軽自動車運送事業を行うことが許されていることです。
より具体的には、都市計画法、農地法、建築基準法及び消防法その他関係法令に抵触しないことが求められます。また、軽自動車運送事業経営届出書ではその旨の宣誓書の提出が必要になります。
それぞれ、確認する必要がある法律の一部を見ていきましょう。
都市計画法
都市計画法では、事務所を設置することが不可能な地域ではないことが条件となります。
都市計画法における以下の区域においては、原則的に運送業の営業所として使用することはできません。
- 市街化調整区域
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域(一定条件の場合)
- 第一種住居地域(一定条件の場合)
なお、「プレハブを運送業の営業所や休憩室として利用できますか?」という質問がよく寄せられますが、一定の条件を満たせば利用可能です。
建築基準法上の建築物とは、「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」と定められているため、プレハブ、ユニットハウス、コンテナハウス等も建築基準法上の建築物に当たります。
建築基準法の適用の範疇に入るので、そのままでは運送業の営業所として使用することはできません。原則基礎工事・建築確認申請をする必要があります。
※市街化調整区域内では、そもそも原則建築物を建ててはいけない地域になるため、建物に該当するプレハブ等も建てられません。
農地法
土地選びでよく問題になるのが、この農地法です。
希望する土地の謄本を確認し、登記上の地目が「田」「畑」でないかを確認する必要があります。
もし希望する土地が「田」「畑」であれば、土地の所有者の許可を得て、「農地転用」の手続きと「地目変更」が必要ですが、どちらもトラストの行政書士部門と土地家屋調査士部門で代行手続きが可能ですので、ご安心ください。
2.休憩・睡眠施設
続いて、休憩・睡眠施設の要件です。
営業所に併設が多いと思いますが、車庫併設でも可能です。営業所にも車庫にも併設されないことは避けた方がいいでしょう。睡眠を与える場合は、少なくとも同時睡眠者1人当たり2.5㎡以上の広さが必要です。睡眠施設が不要な場合は、休憩できるソファーやテーブルがあると良いでしょう。また、使用権限、立地条件等は営業所と同条件となります。
営業所と休憩・睡眠施設は別部屋である必要はありません。同室の場合はパーテーションなどで区分されているといいでしょう。面積を申請書に記載する必要があるので、動かない仕切りが必要です。
3.車庫
まず、車庫は営業所に併設されるご予定でしょうか。
原則として営業所に併設するのが望ましいですが、併設できない場合は営業所からの距離が直線5km以内(新潟県の場合)であれば車庫として使用可能です。
また営業所と同じく、農地法や都市計画法など関係法令の違反していないことも必要です。
ちなみに、立地条件は屋根付の車庫の場合、市街化調整区域は建物を建ててはいけない地域なので、不可となります。
無蓋車庫(屋根のない車庫)であれば、建築物ではないので、市街化調整区域であっても市街化区域であっても設置可能です。
その上で確認しておきたいのは収容能力です。
収容能力
車両がただ停められるだけでは、要件には該当しません。
車両と車庫の境界及び車両相互間の間隔が50㎝以上確保され、かつ、計画する車両の全てを収容できるものであることが必要となります。
その上で、他の用途に使用される部分と明確に区画されており、敷地内における車両の通行に支障がないこと・駐車スペースに物を置いたり、他の用途に使用しないことが条件となります。
今後、車両を増やす予定はあるのか?車を大きくする予定はあるのか?検討しながら、物件探しをしましょう。
4.車両
続いて、車両の要件です。
軽自動車、オートバイ125cc超の軽二輪、小型二輪車などの軽貨物車1台以上が必要です。
1台の軽自動車から申請ができるため、事業用に複数台用意する必要はありません。
また、登録できる車両は、以前は軽トラックや軽バンなどの「軽貨物車」のみ限定されていましたが、令和4年(2022年)10月27日に、買い物用途として自宅で使用している「軽乗用車」も登録できるよう、規制緩和されました。
なお軽乗用車を貨物軽自動車運送事業に使用する場合、積載貨物については規定が定められています。
「積載できる貨物の重量は、乗車定員数から乗車人数を控除した数に五十五を乗じた重量(単位キログラム)以内とすること。また、荷物の位置が極端に運転者室や客室の前方、後方又は片側に偏る積載をしないこと。」
(国土交通省.【貨物軽自動車運送事業における軽乗用車の使用について】内報道発表資料より,https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000260.html)
つまり、軽乗用車に積載可能な重量は、(乗車定員-乗車人数)×55㎏となります。
例えば、乗車定員4名の軽乗用車に運転者1名のみ乗車する場合、積載可能な重量は(4名-1名)×55㎏=165㎏となります。これは軽貨物車の最大積載量350㎏と比較すると半分以下の積載量となります。
軽乗用車を使用する場合は、軽貨物車と同じような重量の荷物を積載できないため、軽貨物車以上に過積載運行にならないように注意が必要です。
5.運行管理体制
貨物軽自動車運送事業には、国家資格である運行管理者の資格は不要ですが、運行管理責任者を選任する必要があります。
これは、過労運転、過積載の防止、安全運行の確保等、事業の適正な運営のための管理体制を確保する必要があるためです。ドライバーと兼務可能です。
ただし、将来的に『一般貨物自動車運送業』の許可取得をご検討されるならば、貨物軽自動車運送事業を経営しながら、運行管理者の有資格者の確保を目指した方が良いでしょう。
既に資格を持っている方の採用でも問題ありません。ですが、役員の方が運行管理者試験にチャレンジして合格して頂くと、一般貨物自動車運送事業の運営がし易くなると思います。
一方、整備管理者は、営業所に配置する軽貨物車が10台以上の場合は、整備管理者の選任が必要になります。(9台までの場合は不要)
6.運送約款の設定
届出にあたって「運送約款」というルールを定める必要があります。
これは、運賃の収受や事業者の責任について等を定めるもので、事業者の利益を優先し、依頼主の利益を損ねるような内容でないかどうかを見られます。
また、事業内容について、旅客の運送ではなく貨物の運送を行うことを明確に示さなくてはいけません。
国土交通省が公示した「標準貨物軽自動車運送約款」を使用することも可能ですが、その場合は、自社の事業に適合した内容であるかを確認しましょう。
まとめ
『貨物軽自動車運送事業』の届出手続きは、比較的簡単な手続きです。
許認可申請の専門家である行政書士でなくても、ご自身で手続きを行う事も可能ですが、メインとなる事業が多忙であったり、不明点が出てきたりすると手続きが滞ってしまいます。
また、『貨物軽自動車運送事業』だけではなく、将来的に『一般貨物自動車運送事業』も予定されている方は、先の事を考えて検討しておいた方が良いことが沢山あります。
面倒なことは任せたい&そしてスピーディーかつ確実に許可を取得して事業を開始したいという方は、許認可申請の専門家である行政書士にご依頼ください。
トラスト行政書士事務所では、司法書士部門・土地家屋調査士部門を併設しているので、付随する様々な手続きが発生しても、ワンストップでご依頼いただく事が可能です。